水産振興ONLINE
628
2021年8月

内水面漁協による環境保全活動について

玉置泰司(国立研究開発法人 水産研究・教育機構元中央水産研究所経営経済研究センター長)
坪井潤一(水産技術研究所 環境・応用部門 沿岸生態システム部 内水面グループ主任研究員)
阿久津正浩/高木優也/久保田仁志/吉田 豊/小原明香/山口光太郎/関森清己/星河廣樹/澤本良宏/傳田郁夫(主担当者)

要旨

内水面漁業協同組合は、内水面に生息する魚介類の管理により、国民に食料としての内水面水産物を供給する本来的機能に加え、漁業権の管理により国民に遊漁等のレクリエーション機会を与えている。さらに、これらの目的を達成するために内水面の環境保全活動を実施している。これらの環境保全活動により、河川や湖沼の環境が保全され、そのことは遊漁を行わない一般国民に対しても、様々な便益を与えている。これらは内水面漁業・漁協の多面的機能として位置づけられる。しかしながら、これまで内水面漁業協同組合による環境保全活動について網羅的に調査を行った事例はない。このため内水面漁業協同組合によって実施されている環境保全活動の実態を把握するとともに、一般国民が内水面漁業協同組合の環境保全活動に対し、どのような意識を持っているのかを把握し、今後の内水面漁業協同組合による有意義な環境保全活動を推進するための基礎資料とすることを目的として、東京水産振興会は2016年度から2019年度の4年間、委託事業「内水面の環境保全と遊漁振興に関する研究」を実施し、4試験研究機関が内水面漁業協同組合による環境保全活動の実態を分析した。本書の第一部では、水産研究・教育機構中央水産研究所経営経済研究センター(当時)による調査結果を、第二部では中央水産研究所内水面研究センター(当時)、栃木県水産試験場、埼玉県水産研究所、長野県水産試験場による個別事例調査の結果を紹介している。

水産振興 第628号は、4回に分けて公開する予定です。
第1回:2021年8月31日/第2回:9月10日第3回:9月20日第4回:9月30日

はじめに

国立研究開発法人 水産研究・教育機構
元 中央水産研究所経営経済研究センター長

玉置 泰司

内水面漁業協同組合は、内水面に生息する魚介類の管理により、国民に食料としての内水面水産物を供給する本来的機能に加え、漁業権の管理により国民に遊漁等のレクリエーション機会を与えている。さらに、これらの目的を達成するために内水面の環境保全活動を実施している。これらの環境保全活動により、河川や湖沼の環境が保全され、そのことは遊漁を行わない一般国民に対しても、様々な便益を与えている。これらは内水面漁業・漁協の多面的機能として位置づけられる。2014年に内水面漁業の振興に関する法律が制定された。第2条で基本理念として、内水面漁業の有する水産物の供給の機能及び多面的機能が適切かつ十分に発揮され、将来にわたって国民がその恵沢を享受することができるように内水面漁業の振興に関する施策が行われなければならないとしている。2018年に成立した改正漁業法においては、第174条に配慮規定として、国及び都道府県は、漁業及び漁村が、海面及び内水面における環境の保全等の多面にわたる機能を有していることに鑑み、当該機能が将来にわたって適切かつ十分に発揮されるよう十分配慮するよう規定されている。また、第61条では都道府県による水面の総合的利用に関する規程の中で、水産動植物の生育環境の保全及び改善に努めなければならないとしている。国際的な動向から見ても、国連によって2015年より開始された「持続可能な開発目標(SDGs)」においても、17の目標の一つ「15. 陸の豊かさも守ろう」のターゲット15.1において、「2020年までに内陸淡水生態系及びそれらのサービスの保全、回復及び持続可能な利用を確保する」とされており、内水面漁協による環境保全活動はこの目標達成のためにも有効な手段である。

しかしながら、これまで内水面漁業協同組合による環境保全活動について網羅的に調査を行った事例はない。このため内水面漁業協同組合によって実施されている環境保全活動の実態を把握するとともに、一般国民が内水面漁業協同組合の環境保全活動に対し、どのような意識を持っているのかを把握し、今後の内水面漁業協同組合による有意義な環境保全活動を推進するための基礎資料とすることを目的として、東京水産振興会は2016年度から2019年度の4年間、委託事業「内水面の環境保全と遊漁振興に関する研究」を実施し、4試験研究機関が内水面漁業協同組合による環境保全活動の実態を分析した。

本書はその成果を取りまとめたものであり、2部構成としている。第1部では水産研究・教育機構中央水産研究所経営経済研究センター(当時)による調査結果を、第2部では中央水産研究所内水面研究センター(当時)、栃木県水産試験場、埼玉県水産研究所、長野県水産試験場による各年度の個別事例調査の結果を紹介している。

なお、2018年に漁業法の改正とともに行われた水産業協同組合法の改正により、「漁業を営む日数」として、「増殖」を行う日数も加えることが可能となった。環境保全活動の多くは水産資源の増殖にも結びつくことから「増殖」の範囲に多くの環境保全活動が含まれるような運用が望まれる。

著者プロフィール

玉置 泰司

【略歴】
1958年生まれ。1983年東京水産大学修士課程修了後水産庁入庁。企画課課長補佐を経て1995年水産庁中央水産研究所経営経済部に異動。水産経済部動向分析研究室長、経営経済研究センター需給・経営グループ長等を経て経営経済研究センター長として2019年退職。水産資源研究所水産資源研究センター再雇用研究員を2021年退職。2019年7月より(一社)日本定置漁業協会専務理事